囚人のジレンマ(Prisoner’s Dilemma)
囚人のジレンマとは、
個々にとって最適な選択が全体の最適な選択にはならないという、
数学や経済学のゲーム理論における有名なモデル。
マーケティングでは価格戦略において取り上げられることが多い。
1950年にアメリカ合衆国ランド研究所の
メリル・フラッド (Merrill Flood) と
メルビン・ドレシャー (Melvin Dresher) が考案し、
顧問であったアルバート・W・タッカー (Albert William Tucker) が
定式化したとされる。
もともと「1回限りの2人ゲームの場合」として研究されてきたが、
「繰返し何度も行われるゲームの場合」
「3人以上のゲームの場合」など、
数多くの条件設定で研究されているといわれている。
囚人のジレンマは次のようなものである。
ある事件で共犯と思われる2人の被疑者が別件逮捕で捕らえられた。
2人の被疑者は、完全に隔離された上で双方に、
次のような条件が与えられた。
①相棒が黙秘を続けている間に、
自分が自白すれば「不起訴」となる。
その場合、相棒は「懲役30年」となる。
②反対に、相棒が自白し、
自分が黙秘を続けた場合は「懲役30年」となる。
その場合、相棒は「不起訴」となる。
③自分も相棒も自白した場合、
双方ともに「懲役10年」となる。
④自分も相棒も黙秘を続けた場合は、
双方ともに「懲役1年」となる。
相棒にも、全く同一の条件を伝えてあるとする。
この条件の場合、
2人の被疑者が取る選択を示したものが以下の利得行列である。
Aの立場から、Bの選択に対しての
合理的な選択を検討すると以下のようになる。
Bが「自白しない」場合、
黙秘すれば1年、自白すれば不起訴となる為、
「自白する」が合理的である。
Bが「自白する」場合、
黙秘すれば30年、自白すれば10年となる為、
「自白する」が合理的である。
これらのことから、Bがどちらを選択しようとも
Aにとっての合理的な選択は「自白する」ことになる。
双方が合理的な選択をすると、
結果としてお互いに裏切り合うことになり
「懲役10年」となってしまう。
全体にとって最も良い選択は、
双方が「自白しない」事であるにも関らず、
個人にとって最も合理的である「自白する」事を選択してしまうという
ジレンマが生じてしまうのである。
マーケティングにおいては、
価格競争における企業の意思決定を考察する際に
取り上げられることが多い。
コモディティ化の進んだ市場では、
製品性能による差別化が難しく、
ほとんどの場合、
店頭価格によって顧客の購買行動が決まってしまう為、
低価格であれば売上がアップするが、
高い価格をつけてしまうと途端に売れ行きが悪くなる。
価格競争を囚人のジレンマに当てはめると、
以下のモデルのようになる。
最良の選択は、自社も競合も「値上げ」を選択することで
市場全体の利益を最大化し市場を拡大させることであるが、
それぞれ一人勝ちを狙う為、
自社にとって合理的な選択となる「値下げ」という意思決定が選択される。
お互いに「値下げ」を行う価格競争が起こり、
市場全体の利益もシュリンクして行ってしまう。
このように、囚人のジレンマモデルによって、
コモディティ市場の価格競争メカニズムを説明することができる。
紹介したモデルは2社間の単純なモデルであるが、
当然のことながら実際の市場には複数の企業が参入しており、
様々な意思決定が行われ、
また市場全体の動きもより複雑となる為、
自社の意思決定は非常に難しいものとなる。