金融のプロと呼ばれる人たちでさえも、臆面もなく「先行き不透明」と言う時代となりました。2008年を境に、ありあまるマネーを背景に虚構の上に虚構を積み重
ねたチキンゲームの時代が終馬したようです。
世界の基軸通貨たる米ドルを国力の源泉に、我が世の春を調歌したアメリカ。アメリカを軸にした経済体制がどうなっていくのか。世界の景気が回復するのはいつなの
か。ウォール街が再び活気を取り戻すことはできるのか。これまで常識だと思われていたことが、次々に崩壊していくなかで、たしかに世界は「先行き不透明」な時代に
突入したようです。
でも、私は疑間に思います。いま、声高に先行きの不透明さを訴える自称・金融のプロたちが先行きを予言できていたことはあるのだろうか、と。プロたちは自分の商売がかかっていますから、自信ありげに「景気は〇年までに回復する」と予言し、「米国の景気刺激策が功を奏すれば、世界的に株式市場は好調へ 転じるだろう」とシナリオを描いてみせます。
でも、彼らの言う将来のシナリオはいつだって不確かです。良いと言う人もいれば、悪いと言う人もいて、そのなかで運良く当たった人が「カリスマ」とあがめられ、彼の運が尽きたときには再び市井の一個人に戻り、誰も彼の意見には耳を傾けなくなるだけです。
英米流の資本主義に限界が見えた2008年。それを象徴するような事件が2008年末に表面化しました。ウォール街でカリスマ視されていた元ナスダック会長・マドフ氏による巨額のネズミ講事件です。その被害額は500億ドルにもおよびました。被害にあったのは世界に名だたる金融機関。イギリスのHsBcホールディングスや王立スコットランド銀行(RBs)グループ、大手ヘッジファンドのマン・グループ、フランスのBNPパリバ、それに野村讃券、あおぞら銀行 。次々に名の知れた金融機関が出てきて枚挙にいとまがありません。
たしかにその手ロは巧妙だったのでしょうが、実際の被害額の大きさには絶旬せざるを得ません。彼らは金融のプロ中のプロだったはずです。そのプロをしてなぜ…というのが皆さんの実感ではないでしょうか。
しかし、私からしてみれば、言葉は厳しいようですが、「プロといっても、しょせんはその程度のものなんですよ」ということなのだと思います。
聞くところによると、マドフ氏のフアンドはネズミ講でありながらも、誰もが参加できるものではなく、選ばれた企業、個人だけが参加できたということです。カリスマであるマドフ氏のフアンドに投資すること、それ自体が一種のステータスになっていたというのです。
参加したくても参加できない、参加するチャンスがあるなら精査せずに資金を入れてしまう、そんな構造があったのではないでしょうか。プロというのはステータスに弱いものです。あるいは、プロであるほどステータスに弱くなるというべきでしょうか。
2008年には、こんな事件もありました。リーマン・ブラザーズなど複数の投資銀行から320億円を詐取した詐欺事件です。犯人は丸紅の社員と共謀して、丸紅の稟議書を偽造し、丸紅の会議室を利用し、丸紅の信用保証がついているかのように偽装し、巨額の出資を引き出したのです。犯人たちは、丸紅ブランドを悪用して、高級スーツに身を包むことで自らのステータスをも偽装して、信頼させたのです。ネタを明かしてみれば、子供だましのような手口ですが、リーマン・ブラザーズを初めとする金融のプロたちが見事に手玉に取られました。
2つの詐欺事件が示しているのはともに「金融のプロといったって、しょせんはそんなもの」ということです。特権層だけが参加できるというステータスにだまされ、犯罪者たちが身を包む高級スーツといううわべにだまされ、大手一流企業のブランドにだまされ、そのあげくに巨額の資金を失いました。
そんな自称プロたちの言葉に従って投資するのが得策なのでしょうか。賢明な方なら、頼るべきは自らしかない、ということがわかっていただけるかと思います。プロは言います。「先行き不透明な時代がやってくるから、預貯金など安全性の高い資産に資金を移したほうがいい」。
とんでもない話です。あなた方プロが先行きを予見できていたことがあるのか? あなた方が先行き透明だと言っていた時代だって、決して儲けさせてはくれなかったではないかー と。
大手証券会社にこう薦められた人がいました。「南アフリカ債券は10%以上の高金利がつきます。しかも、これから南アフリカはワールドカップが控えていますし、ダイヤモンドなどの資源も豊富ですから経済は発展が期待できます。つまり、為替も上がるので金利と為替、両方で利益が期待できるのです」 こう薦められた彼女は、2000万円の貯金をはたいて、南アランド建ての債券を購入したそうです。
たしかに10%以上の高金利はつきました。ところが、彼女がこの債券を買ってから、南アランド/円のレートは18円から8円を割るところまで下げました。金利を考慮せず円換算すれば、2000万円で買った債券が888万円ほどの価値へと目減りしてしまったのです。これだけ為替で損してしまうと、いくら10%の高金利がついたって雀の涙というものです。
「営業マンの言うことなんて聞くんじゃなかった。自分で過去の為替チャートくらいは見ておくべきだった」と彼女は嘆いていました。やはり、投資の世界で頼れるのは自分しかいないのです。