円キャリートレードが行なわれた場合、資金は為替市場をどう流れるでしょうか。 最初に発生するのは「円を借りる」という行為です。次に借りた円を投資したい市場の取引通貨へ両替します。WTI原油に投資したいと思えば、WTI原油先物はニューョークマーカンタイル取引所で取引されていますから、最初に借りた円を米ドルに両替する必要があります。ここで最初の為替取引が発生します。円を売って米ドルに換えるという取引です。つまり、円キャリートレードが活発に行なわれると、円安ドル高の要因となるのです。
ところが、WTI原油先物で思ったように儲けられず、撤退せざるを得なくなると、資金の流れは逆転します。まず返済資金の原資をつくるために資金を回収します。回収された資金は米ドルですが、この資金はもともと円で借りたお金ですから、日本で返さなくてはなりません。米ドルを売って円に換えるという取引が発生します。円キャリートレードの巻き戻しで円高になるというのはこのためです。
円キャリートレードと同様に、アメリカで借りた資金をユーロで投資するといったドルキャリートレードも行なわれていましたから、円キャリーと同様の流れで米ドル高も進んだのです。
2008年後半の主要通貨の強弱を表すと円が最強、次いで米ドル、最後にユーロとなったのは、円とドルのキャリートレードが巻き戻されたためです。
金融不安は米国発だったために、「なぜ震源地であるアメリカの通貨が買われたのだろうか」と疑問に思った方も多かったと思いますが、こうしたキャリートレードの巻き戻しがあったためだったのです。
こうした構造をクカジノ資本主義ガと呼ぶのは、キャリートレードでは自己資本以上の取引を行なうことができてしまうためです。資本主義では信用力があ
れば、融資や出資を受けて大きな金額の取引をすることができてしまいます。
さらに調達した資金の含み益も信用力となりますから、含み益でさらに新たな資金を調達することも可能です。こうなってくると、ポーカーで次々と倍賭けし
ていくようなものですから、 一度運に見放されただけで大きな混乱を招いてします。
カジノ資本主義の象徴的な値動きが原油でしょう。2008年夏に150ドルへと達しようかとしたWTI原油は、わずか半年のあいだに40ドル割れへと100ドル以
上も暴落しました。価格が上昇しているあいだは、恐れを知らぬカジノ資本主義のマネーが我先にと争って流れ込んで買い支えたのです。
ところが、市場はいつも過熱する傾向があるとはいえ、原油の高騰はあきらかに異常でした。原油への投資は度胸試しのチキンゲームと酷似していました。ひとりが逃げ出したとたん、今度は逆に我先にと争って市場からの撤退競争が始まるのは目に見えていたのです。あとはそのきっかけを待つだけでした。
これはもはや正常な市場の動きとは思えません。似たものがあるとすれば、思いつくのは合理性を排除したゲームの世界であるギャンブル場です。カジノ資本主義という言葉は、イギリスの経済学者スーザン・ストレンジが1980年代に出した著書ですでに述べていた言葉です。しかし、その書籍から30年を経たいま、市場のギャンブル化はますます進展しているように思えてなりません。