台湾とは
台湾(たいわん、繁: 臺灣/台灣; 台: 台灣; 簡: 台湾; 英: Taiwan)は、東アジアに位置する島嶼、台湾島を中心に定義される幾つかの地域としての名称、および中華民国に対する通称の国名である。
1945年、当時台湾を統治していた大日本帝国が第二次世界大戦において無条件降伏したことを受け、台湾は澎湖諸島と共に当時中国大陸を本拠地とした中華民国の施政下に編入された。1950年、党国体制を採る中国国民党の国共内戦敗北で中華民国が中国大陸と海南島の国土を喪失したため、台湾は中国大陸から移転した中央政府所在地、かつ1955年以降も中華民国が実効支配する地域(台澎金馬)で面積の99%以上を占める事実上の本土[注 1] となった(詳細は地理参照)。そのため、「台湾」の表記は中華民国の通称または台澎金馬全体の名称としても使用される。近隣諸国としては、東および北東に日本、南にフィリピン、西および北西に中華人民共和国(中国大陸) がある。台湾の中心都市は中華民国の首都機能を有する台北市で、その外港である基隆市、および台湾最多の人口を有する新北市と共に台北都市圏を形成している。
台湾の概要
かつては「フォルモサ」 (ポルトガル語: Formosa, 「麗しの島」) として知られた台湾島は、漢民族が同島に移住し始めた17世紀における大航海時代のオランダ及びスペインの植民まで、台湾原住民が主に居住していた。1662年、明朝再興派の支持者である鄭成功はオランダを追放し、同島初の政治的実体である東寧王国を設立した。清は後に同王国を破り、台湾島を併合した。1895年に日清戦争の結果として下関条約が締結されると、台湾島・澎湖諸島は清から日本に割譲されて台湾総督府が統治する日本領台湾になった。
中華民国は1943年にカイロ宣言で台湾(台湾島・澎湖諸島)を「日本が清から盗取した中華民国に返還すべき地」と定めた。1945年、中華民国は台湾にある日本の統治機構を接収し、台湾省として自国の一部に編入した(台湾光復)。国共内戦の末、中華民国は1949年に政府を中国大陸から台湾島へと移転。国連における「中国」の議席は1971年のアルバニア決議によって中華人民共和国が継承した。中華民国は1992年以降、中国大陸の主権を取り戻すことを放棄している。中華人民共和国は一つの中国方針に基づき台湾が「中華人民共和国統治権下の台湾省」になることを求めている。
20世紀後半に台湾は急速な経済成長及び工業化を経験し、現在では先進国である。1980年代及び1990年代初頭、普通選挙で複数政党制民主主義に発達した。台湾はアジア四小龍の一角であり、WTO及びAPEC加盟地域である。世界第21位の経済規模を有し、世界経済においてハイテク産業は重要な役割を担っている。台湾は言論の自由、報道の自由、医療、公教育、経済的自由、男女平等、人間開発の観点から上位に順位付けされている。米国の国際人権団体「フリーダムハウス」が発表した2021年版の「世界の自由」報告の自由度格付けで、台湾はアジア2位となった。世界で最も裕福な国トップ29では、台湾は世界で19番目に裕福な国である。
行政院主計総処(日本の総務省統計局に相当)が国民生活の豊かさを示す「人間開発指数(HDI)」を台湾に当てはめて算出した結果によると、同指数の最新の2017年ランキングで190の国・地域中トップ3はノルウェー、スイス、オーストラリアで、台湾は世界21位(0.907、超高度人間開発国である)であった。アジア太平洋地域では、台湾はシンガポール(世界9位、0.932)、日本(世界19位、0.909)に次いで3番目に高い順位となった。また、台湾のジェンダー不平等指数(GII)は0.056ポイントで、161カ国中、性別による損失が少ない国として、世界8位、アジアでは首位にランクされている。現代のヒト白血球型抗原とミトコンドリアDNAによる調査の一つによれば、台湾の人口の88%が原住民の祖先を持つという。
台湾の定義
1. 島嶼としての台湾
台湾島、または台湾本島を中心として蘭嶼など77の付属島嶼からなる。総面積は35,980 km2 (13,892 sq mi)。
2. 狭義の地域概念としての台湾
1885年に清朝が新設した福建台湾省に属し、1895年から1945年まで日本が統治していた地域を指す。具体的には、台湾本島と付属島嶼、および澎湖諸島から範囲が構成されている。
3. 広義の地域概念としての台湾
中華民国政府が1955年以降も引き続き実効支配している地域を指す。具体的には、台湾本島と付属島嶼、澎湖諸島、中国大陸沿岸の馬祖列島、烏坵島と金門島、南シナ海の東沙諸島、及び南沙諸島の太平島と中洲島から範囲が構成されている。総面積は36,193 km2 (13,974 sq mi)。憲法上の公式な名称は「中華民国自由地区」。法令・公文書等では他に台湾地区、台澎金馬とも表記される。なお、福建省に属する島々を狭義の地域としての台湾と区別して金馬地区(きんまちく、金門島と馬祖列島の頭文字に由来)と呼称することもある。この範囲は、国共内戦の一環で台湾国民政府が1955年に浙江省・大陳列島の領有権を喪失したことで確定した。現在に至るまで国共内戦は公式な終戦・停戦が為されていないが、これ以降中華民国政府の実効支配範囲に増減は生じていない。
4. 政治実体としての台湾
1949年の中華人民共和国建国後も引き続き存続している中華民国を、正式な国家ではなく「台澎金馬という一つの地域を統治する政治的実体」として扱う政治的な概念。これは、国共内戦を経て中国が社会主義陣営の中華人民共和国と自由主義陣営の中華民国とに分裂したことで発生した概念である。本来、「中国統治の正統性を唯一有する国家」は中華民国のみであったが、中華人民共和国が成立したことにより、「中国統治の正統性を唯一有する国家」を自称する2つの政治的存在が並立し、それぞれが相手方の国家としての正統性を否定する事態となった。その後、冷戦下における微妙な軍事・政治バランスの中、1971年に国際連合で中華人民共和国が「中国」の代表権を取得すると、多くの国が中華人民共和国を「正統な中国政府」として承認し、中華民国を正式な国家として扱わなくなった。だが、国交断絶以降も中華民国との非公式な関係維持を望む資本主義陣営のアメリカ合衆国や日本国等の国々では、中華民国が実効支配している地域を中華人民共和国の統治地域とは別個の「地域」と判断して、「台湾」という地域名称で呼称し始めた。
台湾の地形
台湾東部の大部分は山地であり、西部は緩やかに傾斜した平野である。澎湖県は本島西方に位置する。
地形図
島嶼としての台湾は、台湾本島とその周辺諸島(蘭嶼など)から構成されており、面積は35,980 km2 (13,892 sq mi)である。広義の地域としての台湾(台湾地区)は、台湾本島とその周辺諸島、澎湖諸島、及び金馬地区と東沙諸島・南沙諸島から構成されており、面積は36,193 km2 (13,974 sq mi)で、日本の九州と同程度(日本の約10分の1)の大きさである。台湾地区の面積の99%以上を台湾本島が占めている。
台湾は、日本の琉球諸島(八重山列島)の西方海上に位置しており、台湾本島と最も近い与那国島との距離は約110kmである。台湾本島は北東部で尖閣諸島(釣魚台列嶼)[注 4] と、台湾本島最南端の岬である鵝鑾鼻(がらんび)はバシー海峡を隔ててフィリピンのバタン諸島及びルソン島と接している。また、台湾本島西部は台湾海峡に面しており、海峡の中に澎湖諸島が、海峡を隔てた先に中国大陸がある。台湾地区西端の金馬地区は中国大陸沿岸に位置しており、中国大陸とは最大でも数十kmしか離れていない。その他、南シナ海の東沙諸島は香港の南方に、太平島と中洲島はフィリピンのパラワン島西方に位置している。
台湾最大の島である台湾本島は、南北の最長距離が約394km、東西の最長距離が約144kmで木の葉のような形をしている。島の西部は平野、中央と東部は山地に大別されるが、島をほぼ南北に縦走する5つの山脈(中央山脈、玉山山脈、雪山山脈、阿里山山脈、海岸山脈)が島の総面積の半分近くを占めており、耕作可能地は島の約30%にすぎない。台湾最高峰の山は玉山山脈の玉山(旧日本名:新高山、海抜3,952m)であり、富士山よりも高く、同様に雪山など標高3,000mを超える高山が多数連なっている。また、このほかの重要な地勢としては丘陵、台地、高台、盆地などが挙げられる。なお、台湾本島はフィリピン海プレートとユーラシアプレートの交差部に位置するため、日本と同様に地震活動が活発な地域である。また日本と同じ火山帯に属し、温泉も豊富にある。
台湾の気候
台湾のほぼ中央部(嘉義県付近)を北回帰線が通っており、北部が亜熱帯、南部が熱帯に属している。そのため、北部は夏季を除けば比較的気温が低いのに対し、南部は冬季を除けば気温が30度(摂氏)を超えることが多くなっている。台湾の夏はおおよそ5月から9月までで、通常は蒸し暑く、日中の気温は27度から35度まで上り、7月の平均気温は28度である。冬は12月から2月までと期間が短く、気温は総じて温暖であり、1月の平均気温は14度である。ただし、山岳部の高標高地帯では積雪が観測されることもある(玉山の山頂は寒帯のツンドラ気候に該当する)。
平均降雨量は年間およそ2,515mmであり、雨期に多く、また降雨量は季節、位置、標高によって大きく異なっている。台湾は台風の襲来が多く、毎年平均3 – 4個の台風に襲われている。台風で給水の大きな部分を賄っているが、同時に損壊、洪水、土砂流などの災害も発生している。1996年の台風9号や2009年の台風8号などは、豪雨をもたらした。また、台風以外にも、夏季には台湾語「サイパッホー (sāi-bak-hō)」と呼ばれる猛烈な夕立が多い。
政治
今日の台湾における重要な政治的問題としては、台湾問題が挙げられる。
台湾問題とは、台湾の最終的な政治的地位および主権帰属を巡る中華民国と中華人民共和国と台湾未定論の問題である。1945年9月2日調印のポツダム宣言に伴い、中華民国の南京国民政府は、連合国軍の委託を受けて駐台湾日本軍の武装解除を行うために台湾へ軍を進駐させ、1943年のカイロ宣言に従い、1945年10月25日に台北で日本側の安藤利吉台湾総督・第十方面軍司令官が降伏文書に署名し、中華民国は台湾の実効支配を開始した(台湾光復)。ただし、この時点では行政権を中華民国に移譲しただけであり、国際法上、台湾島地域は依然として日本国の領土であった。1949年10月1日に国共内戦で勝利した中国共産党が中華人民共和国を樹立し、中華民国政府が大陸では崩壊した上で台湾国民政府として再始動してからは、両党間で「中国を代表する正統な政府」としての権利を巡る対立が生じるようになり(→中華民国の歴史)それと同時に台湾の政治的地位と主権帰属も対立の一要因となっていった。なお、日本政府は、1951年のサンフランシスコ講和条約および1952年の日華平和条約において台湾島地域に対する権原を含める一切の権利を放棄したが、それらの帰属先が明言されていないため、台湾島地域の国際法上の領有権は現在でも未確定であるという見方(台湾地位未定論)もある。
台湾を実効支配する中華民国が、長い年月をかけて「名実ともに中国を代表する正統な国家」から「台湾地区のみを統治する民主主義国家」へと変容したことも、台湾問題の理解を困難にする要因となっている。
国民党独裁期の中華民国は、台湾島周辺のみを実効支配するようになった後も「中国の正統国家」を主張し「台湾は中国の一部」という見解を持っていた。そのため「中国(中華民国)支配からの解放と、中国(中華民国)とは異なる新しい国家を自ら建設すべき」とする台湾独立運動(台独運動、または台独)が活発となった。台湾独立運動は中華民国の民主化により下火になったが、長年に渡り台湾住民の国政参加を拒み、差別と弾圧を行ってきた歴史(二・二八事件と呼ばれる台湾人大虐殺と、中国国民党による長期間の高圧独裁)を忘れるべきではないという意味合いで主張する者も少なからずいる。2008年8月末には、中華民国からの独立デモが発生している。
中華人民共和国は「台湾は中華人民共和国の不可分の領土であり、台湾が独立することは許さない」として一貫して台湾独立に反対する主張を繰り返しており、その影響で中華民国国外では台湾独立を「中華人民共和国からの独立」と誤解する者も多いとされる。
21世紀初頭では、国際政治上の駆け引きの結果から「中国を代表する正統な国家」として中華人民共和国を承認する国が大勢を占めている。ただし、ほとんどの国は、中華人民共和国を「承認」しながら、半官半民の組織を介して中華民国と実務関係を維持している。現在も中華民国憲法は、大陸統治時代に制定された条文を維持し、中華民国が中華国家であることの象徴としている。その一方で憲法追加修正条項の制定以後、中華民国が台湾地域のみを統治するとの前提により民主化が進められてきた。しかし、中華人民共和国政府や中華民国の親中派は、こうした動きを法理独立と非難してきた。
今日の台湾世論の大勢は、台湾が中華人民共和国の主権に帰属するものではなく、中華民国という国家であるという点で一致している。その上で中華民国の立法府たる立法院の議員などの政治家は今なお、「台湾も中華人民共和国も同じ中華民族の国家である」とみなす泛藍連盟派と、「台湾と中国は別々の国である」とする泛緑連盟派(台湾本土派および独立派)のいずれかに大別される。
民主化以降の中華民国の世論は、実質的に中華人民共和国とは分離している現在の状態を維持することを望む声が多い。そのため、基本的には現状での安定志向にあると言え、各党も世論を配慮しながら政治活動を行なっている。台湾はすでに事実上の独立国で独立宣言などいらない、という考え方を「天然独」と言い、現総統の蔡英文もその一人である。
地方行政区分
経済
行政院主計総処(日本の総務省統計局に相当)の統計によると、2020年の台湾のGDPは6693.21億ドルであり(国際通貨基金(IMF)の統計によると、2019年の台湾のGDPは6106.92億ドルである)、台湾の経済規模は大阪府・京都府・兵庫県の府・県内総生産の合計を超えており、九州と四国の域内総生産の合計を上回っている。台湾の一人当たりGDP(購買力平価=PPPベース)は2007年に3万ドルを超え、2010年には、台湾が34,743ドルで世界22位となり、初めて日本を追い抜く。2017年の台湾の一人当たりGDP(PPPベース)は50,452ドルであり、世界第18位である。世界で最も裕福な国・地域トップ29では、台湾は世界で19番目に裕福な国である。
台湾の一人当たり名目GDPは2011年に2万ドルを超え、人口2千万人以上の国の中では、台湾は世界で12番目に一人当たり名目GDPが2万ドルを超えた。現在、12カ国が達成している。
2020年は、台湾の一人当たり名目GDPが28,383ドルとなり、前年度より2,442ドル増、一人当たり名目GNI (一人当たり国民総所得)が29,230ドルとなり、前年度より2,636ドル増となった。公益社団法人日本経済研究センター(JCER)が発表した「第3回アジア経済中期予測(2017-2030年)」では、台湾の一人当たり名目GDPは2022年には3万ドル、2029年には4万ドルに達すると予測している。経済規模では、台湾のGDPは2022年には7500億ドル(近畿地方の域内総生産に匹敵)、2030年には1兆ドルに達すると予測している。また、国際通貨基金(IMF)が発表した「世界経済見通し(WEO October 2018)」によれば、台湾の一人当たり名目GDPは2022年に3万ドルに達し、1人当たりGDP(PPPベース)は6万ドルに達すると予想されている。
日本統治時代には、日本の食糧補給基地としての役割を与えられていた台湾地域では、その食料を保管・加工する軽工業が芽生えていた。第二次世界大戦後の中央政府の台湾移転後、中華民国政府は台湾を「反攻大陸」(武力による大陸部の奪還)の基地とした。これに伴い軍事最優先の政策がとられ経済政策は後回しにされたが、そのような中で政府は、軽工業を発展させ、次第に重工業化する政策をとる。経済特区や政府主導による経済プロジェクトが全国に展開され、特に日本とのコネクションを利用した日本の下請け的な工業が発達する。
蔣経国総統の代になり、十大建設をはじめとする本格的な各種インフラストラクチャー整備が始まり、また、ベトナム戦争の際、アメリカは戦略物資を台湾から調達し、そのため台湾経済は飛躍的に発展(台湾の奇跡)。この頃より主な輸出先は日本からアメリカにシフトしていった。また、中華民国政府は軽工業から重工業への転換を図り、積極的な産業政策を打ち出した。しかし、中国鋼鉄や台湾造船、台湾石油などの国営企業を主体としての重化学工業化であり、必ずしも強い国際競争力を伴ったわけではない。しかし、在米華僑(台湾系アメリカ人、中国系アメリカ人)の技術者の協力により行った半導体産業の育成は成功を収め、後の台湾積体電路製造(TSMC・台積電)や聯華電子 (UMC) を生み出す。
1980年代、電子工業の発展は民間中小企業にも波及し、パソコンのマザーボードのシェアでは世界一になった。中華民国はアジアNICs(後にNIEsと呼称)の一員とみなされ(他は韓国、香港、シンガポール)。さらに、外貨準備高世界上位に入るなど、経済発展は目覚しかった。さらに1990年代はIT景気に乗り、1997年-1998年のアジア経済危機も乗り越えた。そのため、中小企業が多い点が日本と似ていることや、政府主導の産業政策や財閥主体の韓国との違いなどが強調されたのである。
1980年代後半は、台湾の現在の自転車工業への転換点でもある。1986年のプラザ合意前までは日本が自転車の生産において大きなシェアを占めていたが、プラザ合意後は日本の自転車産業・特に完成車の輸出は大幅に減少して、台湾が自転車輸出大国に成長した。現在では世界最大の自転車メーカーとなったジャイアント・マニュファクチャリング等の現在の台湾自転車業界の主要企業は1970年代後半から欧米メーカーのOEM・ODMを引き受け、現在に繋がる設計・生産の基礎を築いた。この頃からOEM・ODMの受注だけでなく、台湾の自転車企業は自社ブランドの販売にも乗り出した。
しかし2000年代に入ると、製造業で中華人民共和国への投資による空洞化の進行が目立ち、2001年のITバブル崩壊の影響を受け、2002年には中華民国の台湾移転後初のマイナス成長を記録した。台湾の電子工業はOEM・ODMなど先進国企業からの委託生産に特化し、独自のブランドを持たなかった。そのため、先進国市場での知名度が低く、知名度の高い大企業も存在しない。中華民国政府は、自国企業による中華人民共和国への投資を未だ完全には開放していない。また、中華人民共和国市場での利益の自国回帰も呼び掛けているが、目立った効果は見られない。一方、陳水扁政権は新十大建設を打ち出し、新たなインフラの整備と次世代産業の育成を掲げた。政府はライフサイエンスも重要視しているが、ライフサイエンスがIT産業ほどの経済規模を見込めるのかどうか、疑う声も強い。
日本経済との強い関連下で発展してきた台湾経済は、日本経済と互換性のある面が強い。即ち技術力、工業生産力を利用し、世界市場で優位に立てる製品を開発提供することによって、外貨を獲得する加工貿易が基本である。しかし日本と異なる面も多い。それは漢民族の伝統やアメリカの影響によるものと考えられるが、代表的なものは起業指向であろう。台湾では有能な人ほど起業を志し、それが経済に活力と柔軟性を与えている。個人主義的なのであるが、反面、社会道徳の弱さという弱点も持つ。また、華僑・華人ネットワークに支えられた、全世界ネットワークを駆使した世界戦略も中華民国独特の強みである。アメリカや日本で注文を取り、中華人民共和国やベトナムに製造させる仲介的戦略も、この華僑ネットワークを利用している。
2010年には台湾と中華人民共和国との間で両岸経済協力枠組協議 (ECFA) が締結された。
台湾は世界経済において重要な地位を占めている。世界の情報通信技術(ICT)産業ではトップの役割を果たすと同時に、コンシューマー向け商品の主要なサプライヤーでもある。世界貿易機関(WTO)によると2016年、台湾は世界第18位の輸出国で、モノの輸入においても世界第18位となった。科学技術での専門性を磨くための長年の官民による取り組みを経て、台湾のサイエンスパークはいまや、ICTやバイオテクノロジー、精密機械、ナノテクノロジーなどの分野での飛躍を追求する企業クラスタの本拠地となっている。世界経済フォーラムの「世界競争力ランキング2016-2017」では、調査対象の138カ国・地域のうち、台湾は「総合的なランキング」で14位、「技術的即応性」で30位、「イノベーション」で11位と格付けされた[28]。また、国際経営開発研究所(IMD)がまとめた「2016世界競争力年鑑」では、61の先進経済体の中で、技術インフラで12位、科学インフラで10位と評価された。また、2017年度からは、IT分野に焦点を当てた競争力を測る2017年度「世界デジタル競争力ランキング(World Digital Competitiveness Ranking 2017)」も発表した。このランキングでは、政府の業務、ビジネスモデル、社会全体の変革につながるIT政策の指標で評価される。台湾は総合ランキングで世界12位と評価された。
台湾は2025年までの脱原発へ向けて再生可能エネルギー産業育成を重点政策にしている。2025年には電力供給に占める原発の比率をゼロにし、代替として再生可能エネルギーの割合を20%まで高める目標を掲げており、目標達成に向けて関連産業の育成や雇用創出、外資による投資誘致を図っている。台湾で重視されている再エネは、太陽光発電と風力発電である。台湾は亜熱帯に属し日射に恵まれていることと、太陽電池製造産業が盛んなことから、太陽光発電の設備容量20ギガワット(GW)増加のために1.2兆ニュー台湾ドルの投資を計画している。特に高効率太陽光発電(PV)モジュールを使用したPVプロジェクトは、6%のFIT(固定価格買い取り制度)ボーナスが付与される。また、台湾海峡は安定して風が吹き、風力発電機の故障の原因となる乱流が発生することが少ないことから、特に洋上風力発電が重視されている。「風力発電推進4カ年計画」の下、2020年には陸上風力発電で814メガワット(MW)、洋上風力発電で520メガワット(MW)設置することが目指されている。中長期計画としてはオフショア発電や深海発電なども視野に入れ、2025年までに累積設備容量は4.2ギガワット(GW)に達する見込み。この計画では、国内風力発電産業および海洋構造物製造産業の育成も狙いとしている[33]。
台湾は世界の人工知能(AI)開発競争の中、研究開発(R&D)拠点として急浮上している。米の世界大手のソフトウェアを開発・販売する会社マイクロソフト(Microsoft)は2018年1月10日、人工知能(AI)の研究開発センター(R&D Center)を台北市内に設置すると発表した。また、GoogleはHTC(宏達国際電子)のPixel開発チーム買収により、台北をGoogleのアジア太平洋地域のエンジニアリングの最大拠点とするとしている。さらに、IBMも2018年3月に台湾にR&D拠点を設け、人工知能(AI)やブロックチェーン、クラウドテクノロジーの開発を行うとアナウンスした]。NVIDIAと科学技術部(日本の文部科学省に相当)は2018年6月6日、人工知能における台湾の能力向上を目指すべく提携を行ったと発表した。半導体大手のクアルコムは2018年9月26日に、台湾子会社の台湾高通(クアルコム台湾)が、「運営・製造工程・試験センター(COMET、海外では台湾が初めて)」や「マルチメディア研究開発(R&D)センター」、「モバイル人工知能(AI)イノベーションセンター」、「第5世代(5G)移動通信システムテスト実験室」を設立すると発表した。米ネットワーク機器大手のシスコシステムズは2021年1月13日、新北市林口区のスタートアップ向け産業団地「林口新創園(スタートアップ・テラス)」にソフトウエア開発・運営センターを設置すると発表した。同社がアジア太平洋地域にソフトウエア開発拠点を設けるのは初めて。米シンクタンク「ヘリテージ財団」が発表した最新の2021年版の「経済自由度指数」で、台湾は世界6位となった。世界有数の経済誌『フォーブス』が発表した2018年版「ビジネスに最適な国」ランキングで、台湾は世界16位となった。
賃金・給与
行政院主計総処(日本の総務省統計局に相当)が発表した2020年の薪資與生産力統計(日本の厚生労働省所管の毎月勤労統計調査に相当)によると、台湾の常用労働者(一般労働者(フルタイム労働者)及び短時間労働者(パートタイム労働者)を含む。外国人労働者も含む。)の2020年の平均月間現金給与総額(名目賃金)は5万4320ニュー台湾ドルであり、前年に比べて1.24%増加している。現金給与総額のうち、きまって支給する給与(定期給与)は、前年同期比1.35%増加の4万4313ニュー台湾ドルとなった。また、経常性薪資(所定内給与に相当)は、同1.47%増加の4万2498ニュー台湾ドルとなった。所定外給与( 超過労働給与)は、前年同期比1.41%減少の1815ニュー台湾ドルとなった。なお、特別に支払われた給与(特別給与)は1万7ニュー台湾ドルであった。これを男女別にみると、男性5万8825ニュー台湾ドル、女性4万9130ニュー台湾ドルで、前年に比べて、男性は1.16%の増加、女性は1.28%の増加となった。女性の賃金は過去最高となっており、男女間賃金格差(男性=100)は過去最小の83.52となっている。一方、物価変動の影響を除いた実質賃金(現金給与総額)は5万3094ニュー台湾ドルと前年より1.47%増加し、過去最高を更新した。さらに、台湾の短時間労働者(パートタイム労働者)の2020年の平均月間現金給与総額(名目賃金)は2万467ニュー台湾ドルであり、前年に比べて6.48%増加している。現金給与総額のうち、経常性薪資(所定内給与に相当)は、前年同期比7.35%増加の1万9575ニュー台湾ドルとなった。短時間労働者(パートタイム労働者)の1時間当たり経常性薪資(1時間当たり所定内給与)は、前年同期比3.89%増加の187ニュー台湾ドルとなった。
また、台湾人一般労働者(台湾自国民のフルタイム労働者。正社員・正職員以外(非正規)を含む。)の2020年の平均月間現金給与総額(台湾人フルタイム勤務の月平均名目賃金)は、5万7179ニュー台湾ドル( 前年比0.95%増)となった。現金給与総額のうち、経常性薪資(所定内給与に相当)は、4万4646ニュー台湾ドル( 前年比1.20%増)となった。
行政院主計総処が発表した2019年の雇用動向調査によると、2019年の台湾の被雇用者の平均年間給与(平均年収、平均年間報酬総額)は74.9万ニュー台湾ドルであり、前年に比べて2.5%増加している。さらに、同処2019年の総合的統計によると、2019年の台湾の被雇用者の平均年間現金給与総額(年間現金給与総額平均値)は64.4万ニュー台湾ドル(前年比2.39%増)となっており、2019年の台湾の被雇用者の年間現金給与総額中央値は49.8万(前年比1.64%増)ニュー台湾ドルとなっている。2019年の台湾の被雇用者の年間現金給与総額中央値が年間現金給与総額平均値に占める割合は77.4%となっている。
PPPベース(購買力平価)での台湾常用労働者の2018年の月平均賃金は3657.66国際ドルであり、賃金の実質的な豊かさは西ヨーロッパ ・北ヨーロッパ諸国のレベルに達しており、世界上位の水準である(en:List of European countries by average wage)。また、経済協力開発機構(OECD)の統計基準によると、2016年の台湾の一般労働者(フルタイム労働者)の平均年収は5万2956ドルで、オランダ(5万3295ドル、経済協力開発機構では4位)とほぼ同じレベルであり、経済協力開発機構(OECD)では5位にランクされている。
世帯の所得
行政院主計総処の家計調査では2016年の台湾の1世帯当たり平均所得金額(世帯の平均年収)は、全世帯が125.3万ニュー台湾ドルとなっている。所得金額階級別に世帯数の相対度数分布をみると、「70~79.9万ニュー台湾ドル未満」が6.2%、「80~89.9万ニュー台湾ドル未満」が6.7%で最頻値、「90~99.9万ニュー台湾ドル未満」が6.3%、「100~109.9万ニュー台湾ドル未満」が6.2%で中央値を含む、「110~119.9万ニュー台湾ドル未満」が6.0%、「120~129.9万ニュー台湾ドル未満」が5.6%で平均値を含む、「150~164.9万ニュー台湾ドル未満」が5.4%と多くなっている。世帯所得の中央値(所得を低いものから高いものへと順に並べて2等分する境界値)は109万ニュー台湾ドルであり、平均所得金額(平均年収125.3万ニュー台湾ドル)以下の割合は59.4%となっている[53]。
同処2017年の家計調査では台湾の1世帯当たり平均所得金額(世帯の平均年収)は、全世帯が129.3万ニュー台湾ドル(前年比3.2%増)となっている。世帯所得の中央値(所得を低いものから高いものへと順に並べて2等分する境界値)は113万ニュー台湾ドルであり、平均所得金額(平均年収129.3万ニュー台湾ドル)以下の割合は59.4%となっている。
台湾全世帯での1世帯当たり平均可処分所得金額は99.3万ニュー台湾ドルとなっており、1世帯当たり可処分所得の中央値は85.8万ニュー台湾ドルとなっている。世帯の可処分所得中央値が可処分所得平均値に占める割合は86.4%となっている。等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯員数の平方根で割って調整した所得である。世帯人員1人当たり経済厚生(効用水準)を算出する。)の平均金額(平均等価可処分所得)は59.5万ニュー台湾ドルとなっており、前年調査結果の57.6万ニュー台湾ドルから1.9万ニュー台湾ドル上昇している。また、2016年調査によると、台湾の世帯の年間収入のジニ係数は0.336であり、前年に比べて0.002ポイント改善している。全世帯における等価可処分所得のジニ係数(総世帯員の等価所得のジニ係数)は、2016年は0.268となり、前年調査結果の0.270から0.002ポイント改善している。台湾の世帯のエンゲル係数(世帯ごとの家計の消費支出に占める飲食費の割合)は、2016年は15.76%となり、前年より0.12ポイント低下している。
2017年の家計調査では台湾全世帯の1世帯当たり平均可処分所得金額は101.9万ニュー台湾ドル(前年比2.6%増)となっており、1世帯当たり可処分所得の中央値は88.1万ニュー台湾ドル(前年比2.7%増)となっている。また、2017年調査によると、台湾の世帯の年間収入のジニ係数は0.337であり、前年に比べて0.001ポイント上昇している。全世帯における等価可処分所得のジニ係数(総世帯員の等価所得のジニ係数)は、2017年は0.270となり、前年調査結果の0.268から0.002ポイント上昇している。台湾の世帯のエンゲル係数は、2017年は15.60%となり、前年より0.16ポイント低下している。
2016年の台湾の相対的貧困率(貧困線(等価可処分所得の中央値の半分)に満たない世帯員の割合)は6.62%で、前年より0.5ポイント改善している。
台湾全世帯の2016年の1世帯当たり平均可処分所得や平均等価可処分所得は日本(全世帯の平均可処分所得は416.7万円、平均等価可処分所得は283.8万円。)の約9割であり、世帯所得の中央値は日本(全世帯は428万円)とほぼ同じ水準であるが、物価は日本の約半分程度であるため、台湾家庭の実質的な生活水準はより豊かである。
台北市政府主計処の家計調査では2017年の台北市の1世帯当たり年間収入(世帯の平均年収)は、総世帯が176.7万ニュー台湾ドル(前年比4.69%増)となっている。台北市の世帯の年間収入は東京都(総世帯は600.4万円)を追い越している。
金融・資産
ドイツの保険大手アリアンツが発表した最新の世界各国の富裕度に関する調査報告『アリアンツ・グローバル・ウェルス・レポート 2020』で、台湾は世界57カ国・地域中、世界5位に入り(昨年の世界4位から1つ順位下落した)、アジアではシンガポール(世界3位、11万6657ユーロ)に次いで2番目に高い順位となった。台湾の一人当たりの純金融資産は11万706ユーロだった。
国際的な保険会社アリアンツによる「世界の富」に関するレポートで、台湾の人々が世界で5番目に豊かだと評価された。最新の調査報告『アリアンツ・グローバル・ウェルス・レポート 2020』によると、台湾の人たちの1人あたり純金融資産は約11万706ユーロで世界5位、アジアではシンガポール(11万6657ユーロ)に次ぐ2位だった(日本は10万3829ユーロで世界7位、アジアでは3位)。
金融大手、クレディ・スイスが発表した世界の富に関する2015年度『グローバル・ウェルス・レポート 2015』で、台湾の成人一人当たりの保有資産が19万4701ドルとされた。台湾の成人平均保有資産はアジア太平洋地域の大部分の国・地域を大きく上回り、また西ヨーロッパ諸国の多くと肩を並べる水準。報告書によると、台湾では、中流階級の成人人口は1100万人であり、成人人口全体の59.4%を超え、中流階級以上の成人であれば74.6%を超えている。台湾の成人個人資産10万ドル以上を有する成人の割合は40.1%に上り、世界平均の8%を大きく上回る。資産総額100万ドル超の億万長者の富裕層は41万4000人で、全成人人口の2.2%を占めている。
日本との経済関係
台湾は旧日本領であり歴史的に関係が深く、地理的に近く自由主義陣営の国家であり、貿易を始めとした経済的交流が強い。
民間貿易以外に台北国際金融センタービルや台湾高速鉄道(台湾新幹線)の建設など、台湾の主要公共事業も日本企業によるものがあり、台湾経済における日本への依存は大きいものがある。また日本企業による台湾進出以外にも、古くは衣料業関連、現在では電子工業関連を中心に日本進出を果たす台湾企業もある。
交通
台湾は道路、鉄道、航路ともに発達しており、日帰りで台湾を一周することも可能である。
道路
高速道路は基隆と高雄を結ぶ中山高速公路と、基隆と屏東を結ぶフォルモサ高速公路を中心に整備され、更に主要国道・省道が台湾全土にネットワークを構成している。これらの道路網を利用し、多くのバス会社が高速バスを運行し都市間輸送を担っている。都市間交通は台北や高雄という大都市以外に、地方都市間を連絡する路線も整備されており、鉄道輸送が整備されていない地区の主要交通手段である。
バス輸送はかつては国営の「台湾汽車客運」(中国語の汽車は自動車の意味)が高速バス事業を担っていたが、2001年の民営化に伴い「国光汽車客運」に再編された。それと同時に高速バス事業の自由化が進み、複数事業者による競合の結果、二列シート・軽食・飲物のサービス付き・カーテン・トイレ完備などの豪華なバスが大都市間で24時間運行されるようになっている。このために、民営バス会社は台湾における旅客輸送の重要な地位を占めているが、台北や中壢などでの慢性的、連休期間中の渋滞などによる遅延が発生している。
都市部では市内バス路線が整備されている。以前は旧型車両が多用され、慢性的な市内渋滞や乗客の乗降がスムーズでないなどの理由で利用頻度は高くなかったが、近年は台北市を中心に新型車両への更新、バス専用レーンの設置などで輸送能力に大幅な改善が見られ利用者も増加傾向にある。
これら交通網が整備されているが、特に市街地内交通網が未完成で、利便性に問題がある。このため、タクシーや自家用車の利用が多く、簡便に移動可能なスクーターの利用が多いことも台湾の特徴である。これら各種車両が入り乱れる市内地域では激しい交通渋滞と、運転マナーに起因する交通事故が多発している。
国際運転免許証に関しては、中華民国がジュネーブ条約に加盟していないため、外国人が台湾で運転する場合(台湾人が外国で運転する場合も)には現地での運転免許取得が必要であったが、日台間に関しては、2007年9月19日より日本と中華民国両政府の間で短期旅行者に限定して免許証の相互承認が認められるようになり、短期旅行者がレンタカーなどを運転できるようになり、2008年10月1日からは、現地の免許への切り替えも出来るようになった。ちなみに、日本以外の多くの国では、二国間の取り決めにより、早くから国際運転免許証の相互承認や、現地免許への切り替えが行われていた。
2011年8月1日から小型車(車両総重量が3,500kg以下で乗車定員が9人以下の乗用車)において、運転席、助手席だけでなく後部座席もシートベルト着用が義務付けられた。違反すれば罰金を科せられる。タクシーにおいても例外ではなくなった。
台湾は2017年末、電気自動車(EV)や電動バイクの普及に向けた政策を発表。2030年までにバスと公用車を全面電動化し、2035年にはガソリンバイク、2040年にはガソリン・ディーゼル自動車を販売禁止とする目標を掲げている。
鉄道
台湾の鉄道は、国営の台湾鉄路管理局(略称は台鉄)の路線が台湾を一周しており、自強号(日本の特急に相当)、莒光号(日本の急行に相当)、復興号(日本の準急に相当)が各都市を繋いでいる。また、日本の中距離電車に相当する区間車、区間快車があり、それぞれ日本での普通列車や快速列車に相当する。一部の自強号と莒光号、復興号、普快車は機関車(電気・ディーゼル)が客車を牽引する編成であるが、それ以外は電車や気動車での運行である。これとは別に通勤電車と呼ばれる電車が大都市近郊を走っていたが、区間車へ発展的解消を遂げ、普快車(日本の普通列車に相当)も車両近代化に伴い区間車に置き換えられた。なお、台湾では列車のことを「汽車」ではなく「火車」と呼ぶ。
市内や近接地区を結ぶ鉄道交通ネットワークとしては日本の地下鉄や新交通システムに相当する捷運 (MRT) が運行されている。1996年に台北市政府による最初の捷運として台北文山線が、翌年には淡水線の一部区間dが開業した。2008年3月には高雄市において高雄捷運が開業し、他の都市でも捷運路線の建設または計画がされている。
台湾を代表する台北・高雄を連絡する都市間鉄道として、2007年1月に両都市を最高速度300km/hで運行する台湾高速鉄道が開通した。日本の新幹線車両(700T型)を導入し、台湾初の大型BOTとして建設・運営が行なわれている(台鉄の路線ではない)。日本の新幹線技術の初めての海外輸出となったが、受注の混乱や、各国の技術が混在する折衷型システムにより開業までに様々な問題が発生した。開業後は既存の縦貫線で最速3時間59分であった所要時間を87分に大幅に短縮し、また料金も自強号と航空機の中間に設定するなど大きな競争力を有している(台鉄捷運化を参見)。
高速鉄道の整備計画のない台湾東部の東部幹線に関しては車両の高速化と高速化に対応した軌道改修を行なっている。車両に関しては2004年に日本から885系新型車両を原型とした車両を導入し、太魯閣号の運行が開始された。
またかつては34路線の軽便鉄道として糖業専用鉄道があったが、1980年代にそれらの旅客営業は全廃された。林業鉄道は1914年開業の阿里山森林鉄路が現在も運行されている。
海運
台湾本島と澎湖諸島、金門島などの離島との間は船便によっても結ばれており、航空路線が発達した今日でも利便性がある。台湾本島と澎湖諸島を結ぶ船便は高雄港(台華輪)・台南安平港(今日之星)・嘉義布袋港(満天星客輪)から毎日出ている。
尚、台湾本島と緑島・蘭嶼を結ぶ船便は台東富岡港から、台湾本島と金門島を結ぶ船便(金門快輪というフェリー)は高雄港から、台湾本島と馬祖列島を結ぶ船便(台馬輪および合富輪)は基隆から、それぞれ出航している。
日本からは沖縄・那覇新港から、宮古島、石垣島を経由し、基隆、高雄へ向かう航路が有村産業により運航されていたが、会社破産により運休となっている。
空運
航空機は台湾本島と金門島などの各離島を結んでいる他、主要都市を結んだ高頻度運航サービスを提供しており、料金も割引チケットを使えば鉄道やバスと遜色ないので人気は高い。また日本各地や香港、フィリピンのマニラなどとの間には高密度な国際線が運航されている他、アジア圏内やヨーロッパ、アメリカなどとの間にも多くの国際線が運航されている。
台湾の航空会社としては、日本では成田空港や中部国際空港、福岡空港などに乗り入れているチャイナエアライン(中華航空)が有名であるが、最近では成田空港や関西国際空港、仙台空港などに乗り入れているエバー航空(長栄航空)も日本に浸透してきている。これらの航空会社以外にも、立栄航空やマンダリン航空(華信航空)、タイガーエア台湾(台湾虎航)、ファーイースタン航空(遠東航空)などがある。なお、立栄航空はエバー航空(長栄航空)の子会社、マンダリン航空やタイガーエア台湾はチャイナエアライン(中華航空)の子会社である。
国際空港としては、台湾桃園国際空港、高雄国際空港、台中空港(中部国際空港)があり、最近では、花蓮空港を国際空港に昇格させる計画もある。2019年の台湾桃園国際空港の年間総旅客数は前年比4.6%増の4869万人に達し、2018年に続き再び過去最高を更新した。
国際空港評議会(ACI)発表した2018年の世界の空港ランキングベスト100で、台湾桃園国際空港が世界15位に選出された(昨年の21位から6つ順位を上げた)。入国審査カウンターのサービスを評価する部門では世界1位に輝いた。同団体発表した世界の1202の空港の2017年1~12月の乗降客数・貨物取扱量ランキングにおいて、台湾桃園国際空港は国際線旅客数世界10位、貨物取扱量世界9位、国際航空貨物取扱量世界6位でいずれも上位10位内にランクインしたほか、3部門全てで高い伸び率をマークした。また、世界各国の国際線で就航数が最も多かったのは桃園-香港線で、2017年の統計では2万9494便が就航している。
住民
台湾地域の住民は、混血民族と中国系に大別される。原住民族は平地に住んで漢民族と同化が進んだ「平埔族」(ケタガラン族、パゼッヘ族、バブザ族など)と高地や離れ島に住む「高山族」16民族(アミ族、タイヤル族、パイワン族、ブヌン族、プユマ族、ルカイ族、ツォウ族、サイシャット族、タオ族、サオ族、タロコ族、クバラン族、サキザヤ族、セデック族、カナカブ族、サアロア族。クバラン族とサオ族は平埔族に分類されていたこともある。なお、「高砂族」は日本統治時代の呼び名)に分かれる。台湾の漢民族は、戦前(主に明末清初)から台湾に居住している本省人と、国共内戦で敗れた蔣介石率いる国民党軍と共に台湾に移住した外省人に分かれる。本省人が台湾で85%を占めており、本省人は福建(閩南)系と客家系に分かれる。外省人13%、原住民2%(タイヤル、サイシャット、ツォウ、ブヌン、アミなど14民族)。
台湾の人口が増えて2300万人を超えたため、人口密度は650.42人/km2(2017年1月末統計)であり、人口密度が1000万人以上の国では世界2位になった。
2018年時点で平均寿命80.4歳、女性83.7歳、男性77.3歳で年々上昇の傾向にある[73]。65歳以上の比率は14パーセントを記録するようになった。
少子化が進んでおり、2009年の出生率は0.829を記録、合計特殊出生率は1と世界最低となった。2010年の合計特殊出生率は干支の影響もあり0.895とさらに低下した。2019年の合計特殊出生率は1.28であった。
人口は2020年を境に減少が始まり 2050年代に2000万人を切ると見られている。
2018年(民国107年)現在、在台外国人は約76万人、多い順にインドネシアが25万人で33%、ベトナムが22万人で30%、フィリピンが15万人で20%を占める(民国108年の台湾の内政部統計処調べ)。2015年時点の外国人労働者は58万人で58%が製造業、38%が介護に従事している。
内政部警政署(日本の警察庁に相当)「台閩地區居留外僑統計―按國籍及職業別九十九年 (2010)」によれば、2010年現在、滞在日数180 日以上の長期ビザ取得者が申請できる「外僑居留証」を所持する日本人は、12,056人(男性7,330人、女性4,726人)である。その内訳は、商業人員(2,197人)、15歳未満の者(1,853人)、家事(1,687人)、就学(1,003人)、エンジニア(678人)、教師(640人)、その他(3,472人)となっている。
台湾での総資産が500万ニュー台湾ドルを超えるか、あるいは仕事の技能や専業を例証すれば、台湾移民署に永住を申請することができる。
言語
台湾の国家言語は中国語(標準中国語)であり、国内では国語と呼ばれている。2018年に国語以外の台湾語や客家語そして原住民の諸言語の位置づけが平等となった。
国語は中華人民共和国の標準語である普通話と基本的に同一言語であるが、現在では語彙などの細かい部分に多少の相違点が生じている。他にも日常生活では台湾語(ホーロー語、河洛話、福佬語)、場所によっては客家語、台湾原住民の諸言語が使用される。台湾語は伝統的区分では福建方言(閩語)の一種である閩南語に含まれるが、平埔族の言語や日本語の影響を受けており、その意味でも閩南語とは分化し台湾語、福佬語などと呼称される。
また、台湾原住民の諸言語はオーストロネシア語族の言語であり、多くは台湾諸語に属する(タオ語のみマレー・ポリネシア語派に属する)。その数は、1622年にオランダ人入植者がやって来た時には少なくとも30はあった。その後、日本語の配属下を挟んで二度の中国語の配属下にあったことで、その数は10程度に減ってしまった。また、その話者も2000人以下ということから、土着語は絶滅する危険にさらされている。
中華民国の実効支配地域の言語としては、金門島では閩南語(台湾語)が話されているが、日本語の影響をほとんど受けていないなど、台湾本島の台湾語とは相異がある。馬祖島では閩東語が話されている。烏坵郷では本来は莆仙語が話されていたが、現在は閩南語(台湾語)が話されている。
音声言語の他、日本の手話と類似点の多い台湾手話を母語とする人たちがいる。
文字
国語は中華人民共和国の普通話と同様に漢字で表記されるが、中華人民共和国で使用されている簡体字ではなく、伝統的な繁体字(正字体)が用いられている。ただし、日常生活ではある程度略字の使用が行われている(「臺灣」を「台灣」と表記)。
また発音記号としては注音符号という発音記号を現在でも教育現場で使用しており、小学生向けの教科書にルビとして振られている他、鉄道貨車の形式を表したりするのに使われている。それ以外にもラテン文字系の通用ピンインや注音符号二式、ウェード式のような発音表記方式も存在している。
日本統治時代に教育を受けた世代ではひらがなやカタカナを利用している例もあるが、21世紀初頭では仮名文字を使用して台湾語を表記(台湾語仮名)している台湾人は極めて限定的となっている。
言語教育
高齢者や農村部では、台湾語または客家語、日本語のみ話すことができ、中国語(国語)が話せない人もいる。民主化以降になって、国語以外の言語、すなわち台湾語、客家語、原住民語の教育が義務付けられたが、日本統治時代は日本語で、中国国民党による戒厳令時代は中国語(国語)で教育することが定められていた。若い世代は基本的に中国語(国語)・台湾語とも話せるが、在中年世代以下では中国語(国語)のみで台湾語を「聞いて理解できるが話せない」という人も少なくない。外省人が人口に占める割合の多い都市部でその傾向が大きい。
この他、外国語の教育熱が高く、幼稚園時から英語のみ使用する施設などに子供を預ける人も多い。アメリカやヨーロッパへの修士号への取得、学士号の取得を目標とする留学者も多い。
宗教
台湾では政教分離を基本とし、また中華民国憲法(第二章第十三条)により宗教信仰の自由が保障されているため、国内では各種宗教が自由に存在し、布教されている。
台湾における宗教は、道教・キリスト教・仏教が特に盛んであり、人々は今日でも宗教と深く結び付いている。道教は二大系統のうち、正一教(天師道)の系譜に連なる。キリスト教は、プロテスタントが多数派であり、なかでも台湾基督長老教会が最も信徒の多い教派である。仏教は、1980年代頃から信徒数が急増し、なかでも仏光山・慈済・法鼓山・中台禅寺・霊鷲山の台湾仏教五座山の諸派が盛んである。
政府統計で正式に分類されている主な宗教は、以下の通り。
- 道教
- 基督教(プロテスタント)
- 天主教(カトリック)
- 仏教
- 一貫道 – 清で創設された宗教で、明明上帝を主神とする。
- 回教(イスラム教)- 台湾にはマレーシア経由で日本統治以前に伝来した。後に大陸の回族も国民政府とともに渡来した。
- 巴哈尹(バハイ)教 – 1961年に台湾に伝来した。台湾南部を中心に布教しており、1991年以前は大同教と呼ばれていた。
- 天理教 – 1896年に日本から伝来した。
- 理教 – 明で創設された宗教で、観音菩薩を本尊とする。
- 軒轅教 – 1951年に台湾で創設された道教系の宗教で、台北市に総本部がある。
教育
現在の台湾の教育制度は、中華民国憲法の規定(第二十一条、第百六十条)と各種の教育関連法に基づいて体系化されている。学制は6・3・3・4制が採用され、国民小学6年、国民中学3年、高等中学3年、大学4年となっている。ただし大学の教育、建築学部は5年、歯学部6年、医学部は7年となっている。普通学校と並行して特殊学校(盲学校、聾学校、養護学校など)と補習学校(専科学校や語学学校など)がある。義務教育(台湾語では国民敎育)は、当初は国民小学の6年のみであったが、今は国民中学3年も含めて9年制となる。2001年より小中一貫教育が全国的に実施されるようになり、2006年、幼稚園の義務教育化が始まった。 学年度は9月1日 – 8月31日まで、日本の4月1日 – 3月31日とは異なる。中華民国には20歳の男子国民に兵役の義務があるが、大学と専科学校の在学生は卒業まで徴兵延期が許されている。
台湾の義務教育の年限延長は、2014年から12年国民基本教育(略称:12年国教。小学校から高校まで12年間の義務教育)を実施した。2011年から5歳児の幼稚園・保育所の学費(入園料や保育料)は無償であり(5歳児の公立幼稚園・保育所の学費は無償、5歳児の私立幼稚園・保育所の学費補助金は幼児1人につき毎学年3万ニュー台湾ドルまで)、2014年から6-17歳の学齢児童の教育は無償である。
一般に台湾人は教育に熱心であり、国語(中国語)識字率は98.29%(2012年度)に達する。しかし教育熱心な人が多いゆえに台湾は学歴社会となっており、就職では日本以上に学歴が重視される傾向にある。大学への進学率は70.07%(1997年度)。特に有名高等中学校・大学への入試は熾烈を極める。大学進学・卒業後に海外の大学・大学院へ留学する学生も多く、台湾には日本やアメリカの大学・大学院が出した学位・博士号を持つ者も多い。
大学には総合大学のほかに短期大学(2年制)、工科大学、文科大学、国立空中大学(日本の放送大学に相当)があり、2012年度時点で大学総数162校、学生総数は約136万人に及ぶ。このような大学増設の影響から、最近では大学合格率が100%を超える問題も生じている。
理科系における名門大学は、台北市の国立台湾大学(台北帝国大学,昭和3年)(1945年改編)、新竹市の国立清華大学(1955年復校)と国立交通大学、台南市の国立成功大学(1961年創立)である。文科系では台湾大学や台北市の国立政治大学(1954年復校)が、一流の進学先とみなされている。
国外には華僑子息・子女のための教育機関として、約3750校の華僑学校(日本での名称は中華学校)が設置されており、日本には横浜中華学院、東京中華学校、大阪中華学校の3校がある。日本の華僑学校は歴史が古く、1897年(明治30年)に孫文が設立した私塾に由来する。華僑学校は中国語教育および中華文化の普及を目的としている。教育対象の年齢は各学校によって異なる。
人材競争力
スイスのローザンヌに拠点を置くビジネススクール、国際経営開発研究所(IMD)が発表した最新の『2017年世界人材レポート』で、台湾は63カ国・地域中、23位だった。前年と同じ順位を維持した。アジアの国・地域に限った場合、台湾は12位の香港、13位のシンガポールに続いて3位で、31位の日本や39位の韓国を上回った。
婚姻
台湾は伝統的には夫婦別姓であるが、相手の姓に変更することも可能となっている。また、1985年民法において、冠姓が義務づけられていたが、当事者が別段の取り決めをした場合はその取り決めに従うとされていた。その後1998年の改正で、原則として本姓をそのまま使用し、冠姓にすることもできると改められた。職場では以前から冠姓せず本姓を使用することが多かったという。子供の姓は、原則的に父系の姓が適用されていた(入婿の場合は逆)が、1985年の改正で、母に兄弟がない場合は母の姓にすることもできるようになった。この結果、兄弟別姓が可能である。これも男女平等原則の違反とされ、2008年の戸籍法改正で父の姓か母の姓か両親が子供の姓を合意し、両方の署名を入れ役所に提出することとなった。合意に至らない場合は役所が抽選で決める。
同性結婚
アジアで唯一、同性結婚が合法的に認められる国である。
2003年10月末に、行政院(台湾における内閣に相当)が「人権保障基本法」の中で同性結婚を認める草案を作成したが、閣僚と立法委員が反対し、採決は行われなかった。2012年に同性愛者の権利擁護団体が同性結婚を法制化する草案を新たに提出したが、廃案となっている。2015年台湾で最高司法機関の司法院がインターネットを通じて実施した世論調査では、同性婚の合法化を支持するという回答が71%に上り、それまでの調査よりもさらに増えた。
2017年5月24日、台湾で最高司法機関の司法院大法官会議(憲法裁判所に相当)は、同性婚を認めていない現在の民法の規定は憲法に違反しているという判断を示し、実現すればアジアで初めてとなる同性婚の法制化を2年以内に行うよう言い渡した。2019年5月24日、予定通り同性婚を認める法律が施行され、同日に婚姻届の受理が始まった。この法改正により、台湾はアジア初の同性婚合法化がされた国となった。
男女平等[編集]
男女間の格差を指数化した国連開発計画(UNDP)の「ジェンダー不平等指数(GII)」に則り台湾が独自に行った評価で、台湾の2014年のジェンダー不平等指数(GII)は世界で5番目に格差が少ないとの結果が出ている。台湾はジェンダー不平等指数(GII)が低く、男女平等の度合いが世界5位、アジアでは1位だった。
男女間の給与格差は、2016年に女性の平均時給は264.6ニュー台湾ドルなのに対して男性のそれは307.7ニュー台湾ドルと14.0%の格差がある、男性を100とした賃金格差は過去最小の86.0だった。
台湾内の営利企業の企業トップに占める女性の割合は2015年末時点で36.1%に上り、過去最高を更新した。国内の営利企業数は133万3000社。女性比率は過去最高ながらも、2010年と比較した上昇幅はわずか0.5ポイントに留まった。
世界銀行が発表した世界のジェンダー平等に関する最新の報告書「女性・ビジネス・法律2019」で、台湾は世界187カ国中、世界35位に入り、アジアでは首位となった。同報告書によると、台湾が100点満点中91.25点と、香港(86.25点)や韓国(85点)、米国(83.75点)を上回った。
海外旅行[編集]
経済発展で所得が増え、2012年の台湾人海外旅行者数は1000万人を突破、台湾人海外旅行者の増加傾向が続いている。交通部観光局(日本の国土交通省観光庁と日本政府観光局(JNTO)に相当)によると、2019年の台湾人出国者数は前年比2.7%増(前年比45万6651人増)の1710万1335人となった。人口比で見た2019年の台湾人海外出国率(国外旅行者/人口)は前年比1.9%増の72.46%(ほぼ総人口の4分の3を占める程度)となった。
台湾では日本観光は既に相当な人気となっている。訪日台湾人観光客は2018年で475万人で、台湾の人口約2358万人からすれば5人に1人が訪れた計算になる。訪日外客数の中では、中国(838万人)、韓国(753万人)に次いで多い。
2017年の台湾寄港クルーズ船旅客数は114万人で、過去最高を更新した。台湾のクルーズ船市場規模は2016年に続きアジアの国・地域別で2位となった[111]。
文化
台湾におけるいずれの文化においても顕著な現象として、伝統的要素が色濃く残っている点が挙げられる。社会主義化に伴う文化表現の規制、弾圧により中国では廃れていった漢人の伝統民俗が今日まで数多く残存している他、タオ族を始めとする各原住民でも民族独自の文化が保持・継承され続けている。
漢民族の間では、各出自の共通概念として家族が社会組織の重要な社会単位となっており、祖先崇拝などの伝統家庭行事が現在でも重要な役割を担っている。また二十四節気を基とした旧正月や、清明節(ただし客家人の一部などは祝わない)、中秋節などの季節行事も毎年盛大に行なわれている。この他にも出身地ごとの伝統文化が存在しており、例を挙げれば福建系の伝統文化としては布袋劇(人形劇)や歌仔戯(台湾オペラ、コアヒ)などがある。また、外省人系移民が台湾に与えた文化としては、中華民国政府のイデオロギー的影響や中国各地の料理などが挙げられる。
中国以外の外来文化としては日本とアメリカの影響が大きい。日本に関しては過去に日本による統治を受けていたため温泉、演歌、日本酒、弁当、おでん、武士道などの伝統的な日本文化が残留する以外に、戦後の日台関係の中で新たに流入したカラオケ、J-POP、漫画、アニメ、テレビゲーム、ファッションも台湾で根付いており、1990年代後半には日本文化に傾倒する台湾青年層を哈日族と特に称すようになった。また古くから日本からのテレビ番組を多数放送しているため、日本人の芸能人の認知度が高い。
食文化
中国大陸の廈門に由来する福建料理が混ざったものが伝統的に作られており、一般にはこれらの様式の料理を指して「台湾料理(台菜)」と呼ぶ場合が多い。
また、福建省出身の開拓民と同時期に台湾に渡ってきた、中国大陸の広東省北部出身の客家や湖西[要曖昧さ回避]地方出身者の料理も今日の台湾料理根底の一部をなしていること、さらには過去約50年間に及ぶ日本の台湾統治時代の日本文化の影響や、第二次世界大戦後の中華民国政府の台北遷都に伴い中国各地から来た人々からの影響を受けたことなどが、現在の多様性に富む台湾料理の形成につながっている点なども指摘されている。食材ではカラスミや新竹地方の米粉(ビーフン)、また料理では台南地方の担仔麺などが著名であり、台湾茶と総称される独自の茶文化も存在する。
また、これらの台湾料理を出す料理店は、本格的な店舗を構える高級料理店だけでなく、ナイトマーケットなどに出される屋台がポピュラーな存在として親しまれており、これらの屋台を目当てに各国から観光客が訪れるほどである。
また、仏教、道教、一貫道の「殺生の禁止」の教えから、人口の1割程度がベジタリアン、ヴィーガンであるとされており、台湾素食 が知られている。
90年代からは東南アジアからの移民増加により出身国の料理も広がっている。
世界遺産候補
世界遺産は、1972年のユネスコ (UNESCO) 総会で採択された通称「世界遺産条約」に基づいて、世界遺産リストに登録された普遍的な価値を持つ遺跡のことである。しかし、中華民国は1971年に国際連合における「中国の国家」としての代表権を喪失し、以来ユネスコへの加盟を認められていないことから、中華民国政府の統治下にある台湾地区では世界遺産が一つも登録されていない。
「世界遺産条約」成立以来、永らく中華民国は国内遺産の世界遺産登録に向けた行動を起こしてこなかった。しかし、2000年の台湾総統選挙で民主進歩党の陳水扁政権が発足すると、中華民国行政院・文化建設委員会(今・文化部)は「中華民国は世界遺産条約を締結はしていないが、地球村の構成員であり、遺産を継承・保護しなければならない」との方針を打ち出し、2003年に国内で世界遺産登録の候補地を募集した。その結果、世界遺産登録の基準を満たす可能性がある遺産として12か所の遺産が選定され、現在では、将来の世界遺産登録に向けた資料作成や住民向けの講座開設等の教育活動、考古学、地理、建築などの専門家で組織する世界遺産諮問委員会の設置等の活動、およびに国際的なPRを進めている。
なお、世界遺産登録候補の内訳は、自然遺産が6か所、文化遺産が11か所、複合遺産が1か所となっている
自然遺産候補
- 太魯閣国家公園(花蓮県)
- 棲蘭山ヒノキ林(宜蘭県)- 生きた化石ともいわれる貴重な植物で、最大70メートルにも達する「タイワンヒノキ」と「タイワンベニヒノキ」が生育している。東アジア最大面積の針葉樹林。最古の樹齢2540年で、「孔子神木」と名付けられている。
- 陽明山 大屯火山群(台北市)
- 澎湖玄武岩自然保護区(澎湖県)
- 玉山国家公園(南投県)
文化遺産候補
- 卑南遺跡及び都蘭山(台東県)
- 淡水紅毛城及び周辺の歴史建築群(新北市)
- 金瓜石集落(新北市)
- 楽生療養院(新北市)
- 桃園台地の陂塘(桃園県)
- 烏山頭ダム及び嘉南大用水路(台南市)
- 屏東排湾(パイワン)族の石板屋集落(屏東県)
- 澎湖石滬群(澎湖県)
- 金門の戦地文化(金門県)
- 馬祖の戦地文化(連江県)
- 阿里山森林鉄道(嘉義市、嘉義県)
- 台湾鉄道旧山線(台中市、苗栗県)
複合遺産候補
- 蘭嶼島の集落及びその自然景観(台東県)
スポーツ
台湾で人気のあるスポーツとしては、プロリーグが存在する野球、準プロリーグが存在するバスケットボールが挙げられる。政治的な問題から、オリンピックなどの国際大会には通常チャイニーズ・タイペイとして出場する。台湾は、その経済水準の割にスポーツのレベルは高くなく、国際舞台で活躍する台湾人選手は目立たなかったが、2004年アテネオリンピックではテコンドーで台湾に史上初の金メダルがもたらされた。
- 野球
- 野球は日本統治時代に日本から台湾へ伝えられた。かつて嘉義農林学校(現・国立嘉義大学)の野球チームが夏の甲子園で準優勝したこともあり、その活躍は『KANO』として映画化された。野球は事実上の国技として、台湾で最も盛んなスポーツの一つとなっており、国内の500圓紙幣の絵柄に少年野球チームが採用されているほどである。
- 1990年には国内初のプロリーグ、中華職業棒球大聯盟が発足した。近年では米国や日本のチームに在籍する台湾人選手が増えている。2006年にMLBで19勝をあげて最多勝を獲得した王建民は台湾の英雄的存在である。日本球界では、かつては郭泰源、郭源治、大豊泰昭らが活躍し、現在は千葉ロッテマリーンズのチェン(本名:陳偉殷)が有名である。また、中華民国籍である王貞治は台湾での知名度も高く、2002年には王が監督を務めるダイエー主催のNPB公式戦が台湾で開催された。ただし、昨今では日本で活躍している選手は少なく、日本で知名度が高いのは読売ジャイアンツの陽岱鋼である。2013年には、大量に台湾人の選手が解雇され、どの選手にも日本の球団は獲得意思を示さなかった。
- 一方で、台湾でのプロ野球人気は1990年代後半に起きた八百長問題をきっかけに低迷が続いている。2008年には八百長問題が再発し、2球団がリーグから除名され、4球団のみのリーグ構成となった。観客動員も平均2千人を切るまでに低迷し、有望選手の海外流出、経営難も相まってプロリーグは存続の危機に陥っている。2012年の東日本大震災復興支援ベースボールマッチにプロ野球台湾代表が来日し、試合の収益は震災復興に当てられた。
- 野球チャイニーズタイペイ代表は1992年のバルセロナオリンピックでは銀メダルを獲得した実績を持つが、日本・韓国がプロ選手を五輪に派遣するようになってからは、メダルから遠ざかった。
- また、ワールド・ベースボール・クラシックの参加国の1つでもある。2009年の第2回大会では、辞退者が相次いだこともあり苦戦を余儀なくされ、1次ラウンドの初戦で韓国に大敗し、2戦目では格下と思われた中国にも敗れ、2連敗で姿を消した。2013年の第3回大会では、1次ラウンドを1位通過し、初めて2次ラウンドに進出した。2次ラウンドでは、日本に善戦したものの土壇場で勝利を逃し延長戦で敗れ、敗者復活戦でキューバに敗れたため、2次ラウンドで敗退した。2017年の第4回大会では、2009年の第2回大会のようにまた辞退者が相次ぎ、苦戦を余儀なくされた。1次ラウンドのオランダと韓国戦では接戦で負けたが、結果的にはイスラエルにも負けて3連敗で姿を消した。
- バスケットボール
- バスケットボールは野球に次いで盛んなスポーツである。2003年には準プロリーグの超級籃球聯賽が発足した。競技レベルは、世界的に見るとまだ発展途上ではあるが、アジアでは比較的上位に位置し、バスケットボールチャイニーズタイペイ代表は過去にオリンピックやバスケットボール世界選手権に出場した経験がある他、近年でも2009年バスケットボール男子アジア選手権で5位に入る健闘を見せた。両親が台湾出身のジェレミー・リンらNBAで活躍するアジア系選手の人気にも触発され、国内では特に若者の間で人気がある。日本とのかかわりとしては曾文鼎がbjリーグの大阪エヴェッサでプレーしたことがある。
- ソフトボール
- 男子の野球と同様に女子のソフトボールも台湾で盛んなスポーツのひとつである。1982年に世界選手権が自国開催され準優勝。オリンピックも4回中シドニーを除いた3度出場している国際大会の常連である。
- サッカー
- 歴史的に日本と米国の強い影響を受けてきたため、台湾におけるサッカー人気は他のアジア諸国と比べると見劣りするが、2007年に、競技力の向上と人気の拡大を図り、それまでの企業リーグから地域を重視する2部リーグ制のインターシティフットボールリーグへ移行するなど、中華民国足球協会の指導の下、国内リーグの改革が進められている。代表チームは、男子も女子も国際大会で苦戦が続いている。
- ソフトテニス
- 歴史的経緯により戦前より盛んに行われている。近年はテニスの人気におされているが現在でもシニア層を中心に全土に愛好者がいる。とくに南部では盛んである。アジア競技大会(1994年大会より正式競技)では8個金メダルを獲得、世界ソフトテニス選手権(1975スタート)においても6個の金メダルを獲得、日本、韓国と鼎立しているといえる。
- テニス
- テニスは台湾においても人気のあるスポーツの1つである。1990年代までは国際試合で活躍する選手には女子が多かったが、21世紀初頭には男子の強豪選手も現れ始め、盧彦勳と王宇佐がシングルスにおいて世界ランキング100位以内に入る活躍を見せている。
- バレーボール
- バレーボールも2004年に中華民国排球協会によって国内リーグが設立されるなど発展傾向を見せているが、競技レベルは他国に比べるとあまり高くはない。ただし、チャイニーズ・タイペイとして出場した2006年の女子世界選手権では、日本から初めて勝利を挙げた。第1セットは18-25で日本に先取されたが、その後25-18、25-19、25-23と3セット連取し、逆転勝利を収めている。また、アテネ五輪の世界最終予選に於いても、日本相手に1セットを奪う健闘を見せた。アジア大会では2006年に銅メダルを獲得。
- ボクシング
- 台湾ではボクシング=流血とみなされ、敬遠される傾向にあったが、そのイメージを払拭する目的もかねて、2011年より普及促進を目的として台北市カップ国際ボクシングトーナメントを創設した[135]。著名な選手としては日本に渡り世界タイトルにも挑戦した経験を持つロッキー・リンが挙げられる。
通信・メディア
台湾では新聞、雑誌、インターネットのメディアに対する政府検閲は原則的に存在しない、また諸外国メディアによる報道も原則的に自由に行われている。しかし大陸からの介入を制限する「反浸透法」があり親中的な報道は一定の制限を受ける、2020年には当局から衛星放送チャンネルである中天新聞台の放送許可が取り上げられた。
テレビは台湾電視公司、中国電視公司、中華電視公司、民間全民電視公司や公共電視文化事業基金会などの全国ネット地上波局のほかに、ケーブルテレビ局も多数存在し、各種専門チャンネルによる放送が24時間行われている。
新聞は『聯合報』や『中国時報』、『自由時報』の三大紙のほかに、近年は香港資本による全面カラー『蘋果日報』や英字新聞の『Taipei Times』や『Taiwan News』などが発行され、各新聞ごとの独自論調を展開した読者獲得競争が行われている。近年ではインターネットの普及により新聞メディアの低調が目立つようになっているが、人口当たりの発行部数は世界有数のレベルを現在でも保持している。
政府系ニュースサイトとして、Taiwan Todayが存在する。
報道自由度
米人権団体「フリーダム・ハウス」が発表した最新の2017年の報道の自由度に関する報告書で、台湾は世界39位となったことがわかった(昨年より5位順位を上げた)。
国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」(RSF)が発表した2018年の世界報道自由ランキングで、台湾は180カ国・地域中42位に選ばれ(昨年の45位から3ランク上昇した)、アジア圏で首位となった。同組織は、2017年に台北で初めてのアジア事務局を設立すると発表した。選定理由には、台湾の地理的位置やアジア随一の報道の自由度などが挙げられている。